桐たんす 相徳(あいとく) 桐箪笥一筋

〒113-0021 東京都文京区本駒込6-13-1 [営業時間] 11:00〜17:00(火曜日・木曜日定休)
03-6902-0931 [FAX] 03-6902-0973
ブログブログ 伝統工芸と ともに歩むブログ 桐たんす事例集
SOHOコンピューティング 99年 3月13日 発売 号
桐たんす 相徳は この取材に協力をしています

ルポルタージュ SOHO企業 二代目たちのデジタル化奮戦記


★いいたい事をもっといおう ネットで個性を買ってもらおう★

★ 今ではまるで記念品か嗜好品のように思われている
高級桐タンスだが 実用品としての高い価値は
微塵も失われていない。こだわりをもつ作り手は自問した。
とりあえずおカネになれば満足か、お客様に何を
伝えたいというのか 売る側の個性 買う側の
個性の出会いを求めた結果 コミュニケーションの
場として浮上したのはインターネットだった。
取材 ・文 ノンフィクションライター 坂本 伸之 ★

★ここ一年で得られた店頭での快感の理由★

★ 伝統的和家具の桐タンスを並べる店内は明るい、
それは淡黄色の桐の木肌が光沢を放っているからである。 新品の桐タンスに触れた人が感嘆の声を漏らすのは、
扉や引き出しを引き開けた時の独特の「抵抗感」を感じた時だろう。
腕のいい職人による桐タンスは 各部が寸分違わぬ精度に仕上げられ
空気の漏れ出るスキ間もない。

引き出しの抵抗感はこの精密な仕上げによる気密性の高さによるものだ。
さらに 開けた引き出しを閉めようとするとき 押し込められて行き場を失った空気が
閉まっていたはずの別の引き出しを手品のように押し出す。
「それが しっかりとした桐タンスの証ですよ」 創業118年を誇る桐タンスの老舗 相徳4代目主人 井上雅史さんは
そう語りかけながら静かに来店客の脇に立つ。
小さな物でも1棹(さお)30万円。大きな物で百数十万円はする桐タンスは
高いものなのか、安いものなのか。
金額だけ見ると決して安くはない。
しかし 桐タンスの機能を詳しく聞いてみると、
それが高い買い物に終わらない事がわかる。 たとえば しっかりと作られた桐タンスだから可能な削り直し、
30年、40年と使い込まれ、すっかり古びて傷ついてしまったものでも
色褪せた表面にカンナをかける事で
新品同様の淡黄色の光沢を放つのが桐タンスなのである。
削り直しできるのは2度、3度。
つまり、リメイクしながら2-3代にわたって使い続ける事ができる。 また収納物の保存においても、桐タンスの右に出るものはない。
防湿性が高く、かつ吸湿性が低い桐タンスは湿気を防ぎ
タンス内部の水分や湿気を外に出さない。
衣類をいれる場合、充分に風を通して納めれば
適度に乾燥した状態のまま保存することができる。 この保存性の高さから 
桐タンスは重要な物品の保存用としても重用されている。
需要は一般家庭のきもの収納用ばかりではない。
郵政省の切手原画の保管庫も 相徳の桐製だという。 この相徳に店先に訪れる客が
2つにタイプに大別されるようになったのは
ここ1年ほどの事だという。
2つに大別されるというより 従来の客のほかに
わずかずつではあるけれど
ある新しい客層が見られるようになったといった方がいいのだろう。
「それはうちのホームページを見てから来店するお客様
従来のお客様に比べ こちらは話もスムーズで成約率が高いのです」 じつは井上さんは ある種の快感を感じながら新しい客を迎えている。

★作り手と使い手の断絶をうめたホームページ★

★ もし 自己実現の妨げとなる障害や抵抗が取り除かれた時に
ある種の快感が得られるとするなら
井上さんにとっての障害や抵抗とは何だったか? バリアの一つは 
製品の作り手と客の間に介在する流通業者とのコミュニケーションのまずさだったという 以前 あるデパートの売り場担当者がこんな事を口にしているのを聞いて
井上さんは頭に血が上っていくのを覚えた。
「ここ(デパート)へやってきて桐タンスを買い求めていくお客様は 衝動買いだよ」 東京の場合 桐タンスの販売チャンネルはデパートがほとんどである。
売り場担当者のなかには 専門知識が充分でない人もいる。
デパートのブランド力を背にすれば 
店員のにこやかな表情だけで1棹百数十万円もする高級桐タンスが
売れてしまうことがあるのかもしれない。
もちろん それはそれでいいのだろう。
だが 作り手の気持ちは違う。
「本物を欲しがってデパートにやってくるお客様だからこそ
しっかりとした説明をしなくてはならないんです。
百数十万円が高いか安いか
それが2代 3代と末永くお使いいただけ
リーズナブルな価格であることを伝えたいのですが」
井上さんは つねづね歯がゆさを感じている。
価格ばかりではなく 材質や造作の面において
作り手としての役割を果たせずに無念さを感じることもあるという。
それはゼネコンや設計事務所の依頼を受け、
ホテルやマンションの造り付け桐タンスを手がける同業者のケースである。
「桐の特性を知らない設計者が
『そこは薄板の桐を貼るのではなく、無垢の板を使って高級感を出せ』という。
ところが塗装の仕上がりを考えると、
薄いツキ板がいいこともある。
物を知らない設計者が桐の良さを殺してしまう」 おそらく一昔前なら、
ゼネコンや設計事務所の言い分を職人気質の頑固さが押し切ってしまったのだろうが、
当節、そうした気質の職人の需要は少なくなった。
その結果、作り手の思い入れやこだわりが、
使い手に届かなくなりつつあるのではないか。
井上さんはそう考える。 物の作り手と使い手の間のコミュニケーションを求めることは、
大量生産システムでより安価で質の高い物が手に入る世の中ではそもそも無理である。
しかし それは量産品の話で、
桐タンスのような伝統的工芸品の場合、話は異なる。
作り手と使い手の間に、
思い入れやこだわりが行き来しなくなったとしたら伝統的工芸品は、
次第にその意味と歴史的重さを失っていくだろう。 ホームページによる相徳の情報発信は、
作り手と使い手とをつなごうとしている。
ホームページによって本物の良さを知ったうえで来店する客が
一人二人とやってくることが、
作り手である井上さんにとって嬉しく思えるのは、
作り手としてのプライドと使命感があるからこそ。
もちろん成約率が高いことは喜ぶべきだが、
それは二の次の話なのである。

★経営者としての顔が見えてきた★

★ 自社、つまり相徳のホームページだけでなく、
東京都家具工業組合のホームページ制作のプロデュース役を担ってきた井上さんは今、
同業者がネットワーク上で知恵を共有することで仕事がうまく運ぶことを願っている。
相徳4代目主人として家業を受け継ぎ、
低迷する景気を何とかしのぎ、
ネットワークにより組合を活性化させようと奔走する昨今は、
忙しいながらも充実した日々である。 しかし、ここに至るプロセスにこれといった理路があったわけではなかった。
次男でありながら、
中学1年頃にはすでに後継者になることを暗示され、
同志社大学に進み、
修業としで情報系大手ベンダーに入社した井上さんは、
「今のような自分ではなく、なんかボーッとしてましたね」
と2()代を振り返る。 先代は平成2年の夏に病のために没したが、
桐タンスメーカーとしての姿勢については自律的で厳しい理念を持っていた。
それは伝統的製作法を堅守し、
会津桐を原木から調達し、
もっぱら桐タンス一筋に生きるという家訓にも表れている。 当代井上さんのゆったりとして人なつこい雰囲気と、
伝統に生きる相徳とは必ずしもマッチしない。
それは、 「ボーッとしてました、若い頃は」
といった飾らない、自然体の言葉遣いからもいえる。
しかし4代目としての井上さんには、
井上さんなりの経営者としてのパーソナリティが形成されつつあるようだ。 それは組合活動、
とりわけインターネットによる情報発信への取り組みの中で
形作られてきたのだろう。
最初の動きは平成9年夏、
桐タンス業者を含め22の家具業者が
「手作り家具の良さを知ってもらおう」との考えで
立ち上げた共同ホームページ作りだった。
この試みは次第に勢いを失っていくが、
井上さんはあきらめることなく新しいメンバーを募り、
共同ホームページを提唱し立ち上げていく。 こうした模索の中で井上さんはある確信を得てきた。 ★

★一枚岩でなくていい。たから個性が出る★

★ ネットを使うことで同業者が
それぞれの特徴を発揮することができないだろうか……? 
肩肘を張らず、自然体で模索してきたことがよかったのかもしれない。 井上さんの頭の中では今、
インターネットがもたらす可能性について、
こんな輪郭が浮かびつつある。 「家具業界には、じつは不満が渦巻いている。
使い手にこだわりを伝えられないもどかしさ。
専門知識のない流通業者というバリアを何とかしたいという思い。
家具の作り手である私たちが、
思い入れやこだわりを自由に述べられる場所がインターネットじゃないのかな」 井上さんは、
言いたいことを徹底的にオープンにすることで個性が生まれる
ともいう。
「家具屋は桐タンス屋に限らず、
いろいろなところに思い入れ、こだわりをもっています。
たとえば原木であったり、たとえば細部の精緻さであったり……。
それを思い切ってストレートに言い放つことで使い手には個性として伝わる。
そうなったら面白いじゃないですか」
 現在、井上さんは東家工(東京都家具工業組合)参加企業から有志を募って
ホ―ムページ制作に取り組んでいる。
その数は10数社。 その有志らで資金を出し合い、
本格的な活動にしていこうとの動きもあったが、
「金を出すのは意に沿わない」と反対意見が出るなど曲折もある。
インターネットで情報発信をしたいという志は同じくするが、
決して一枚岩ではないところに難しさがある。 「しかし、それでいいのです。
はっきりと本音を言ってしまうことがチームワークの出発点ですから」 井上さんには曲折や困難が、可能性に見えているらしい。
そして次のように期待を膨らませる。 ぶつかり合いながらも突出した部分をうまく生かしていく。

たとえば、
『うちは数をこなすホテルの家具で儲けたいんだ』と言えればいい。
あるいは『いや、グレードの高い家具しか手がけないよ』と言えばよい。
それを客が見ることで個性が伝わり、
自分の期待を満たしてくれるグレードを持った家具の作り手は
いったい誰なのかが見えてくる、と。 最近、ネットを介して着付けなど和裁関係者との「オフ会」などにも参加し、
見聞を広めている井上さんは確信を深めている。
「和裁や家具作りといった伝統工芸の世界で
プライドを持って仕事をする人たちが、
流通業者や元請けを飛び越えるようにして、
それぞれの思いを伝えたがっている。
インターネットはまさにこの世界に打ってつけのメディアです」
井上さんにとって、
インターネットは伝統工芸の作り手と使い手を結び、
活性化をもたらす絶好のメディアなのである。★




桐たんす 桐箪笥 相徳キャラクター




桐たんす 相徳 バナー

03-6902-0931
aitoku@aitoku.co.jp