桐たんす 相徳(あいとく) 桐箪笥一筋 

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老舗風土記 第二回


★尊徳の精神を商いに★

★「相徳」初代は井上徳次郎といい 相模の国柏山村(現小田原市)の出身である。    
柏山村は、勤勉、孝養、倹約、徳育、公益、再建、改良、平天下などなどの、    
修身教科書をそのまま人間にしたような、    
かの二宮尊徳先生(金次郎)生誕の地である。

井上徳次郎は、長じて小田原の町に出て、指物師の徒弟となった。    
徳川が明治に変わるころである。    
指物とは、木材を組み立ててつくる机、箪笥、長持ち、火鉢などのことである。    
小田原は箱根細工に見られるように、
木工器物が盛んな土地だったのだろう。    
指物の修行を積んだ徳次郎は、明治13年に東京へ出た。    
芝三田に住んで桐箪笥の製造をはじめた。    
このころ桐箪笥はまだ一般に普及されていなかった。    
庶民のあいだに、衣類を収納する機能的な器を、必要としなかったためである。    

まわりくどい言い方をしたが、    
平たく言ってしまうと、箪笥にしまうほど、着物を持っていなかったということ。    
大衆は着たきり雀だったのだ。
よそゆきの着物があったとしても、それは金ぐりのために、    
質蔵を出たり入ったりした。
「俺は上等の着物を持っているが、質屋の蔵に預けてあるから、    
火事になっても安心だ。どんなもんだい。 ざまあみろだ」    
などと、八つぁん、熊さんは痩せ我慢の強がりをいったのである。    

御一新でこれからは四民平等になる。    
農村町民の中からも、衣装持ちが出てくる。    
そうなるというと、行李などより便利な箪笥が求められるはずである。    
箪笥の需要に大衆が参加してくれば、    
この商売は繁盛するに違いない・・・というのが徳次郎の狙いであった。    
小田原で修行した各種指物の技術を、箪笥だけに絞り込んだ。
箪笥といえば桐材である。

相模の国から出てきた徳次郎というので、店の名を「相徳」とした。    
ついでに・・・・ いや、ついでではありません。    
愛し愛されて、お嫁さんを相模の国柏山村から迎えた。    
アサさんという働き者の娘さんである。    
アサさんは、勤勉倹約を旨とし、徳育の完成された女性であった。    
それもそのはずで、
かの二宮尊徳先生の家で、行儀見習の奉公をしていたのである。    
尊徳先生はすでに亡くなられていたが(安政3年没)、    
生家にその精神は脈々と流れていた。    

よき伴侶を得て、相徳は東京屈指の桐箪笥業者になった。
夫妻が相携えて、商売の徳(得)を得たのである。


                  (文 もりた なるお)
   老舗風土記 産経新聞 平成3年 1991年 6月19日 ★




今回は 先祖の話になってしまい照れくさいです
  そもそも 東京へは駆け落ち同然に出てきたと伝えられています

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